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不動産売買契約Q&A

不動産売買契約Q&A

不動産売買契約
Q&A

弁護士
田宮合同法律事務所

初めて不動産の売買契約を締結される方が売買契約書をご覧になった際などに参考にして頂けるよう、分かりやすい言葉、一般的に使われている言葉で、法律の基本的な事項を解説しています。

不動産の売買契約に関してお役に立つ法律情報を、Q&A形式で解説しています。

手付金

Q
手付金とは何ですか。
A

 手付金とは、売買契約の締結に際して買主が売主に対して支払う金銭をいいます。

 手付金がどのような性質をもつかは、以下でご説明するように、売買契約ごとに異なります。手付の授受は、少なくとも、これによって契約の成立したことを確認する目的を有しますが、それを証約手付といいます(後述する【Q 解約手付ではない手付金にはどのようなものがありますか。】に記載されているとおり)。手付の性質については【Q 解約手付とは何ですか。】【Q 解約手付ではない手付金にはどのようなものがありますか。】などがあります。したがって、不動産の売買契約の締結に際して手付金のやり取りをする場合には、どのような性質をもたせるのかを、売主も買主も認識しておく必要があります。

Q
解約手付とは何ですか。
A

 手付金が「解約手付」としての性質をもつ場合、買主は、売主に支払った手付金を放棄することにより、売買契約を解除することができます。反対に、売主は、買主から支払われた手付金額の倍額を買主に返すことにより、売買契約を解除することができます。

 法律上、手付金は原則としてこのような解約手付の性質をもつこととされています。したがって、売買契約においてこれと異なる内容を定めなければ、手付金は解約手付の性質をもつことになります。

 なお、売主が宅建業者である場合には、売買契約において手付金をどのような性質と定めたとしても解約手付の性質をもつこととされており、宅建業者でない買主は手付金を放棄して売買契約の解除をすることができます。

Q
解約手付ではない手付金にはどのようなものがありますか。
A

 解約手付の性質以外には、売主または買主に契約違反があった場合の損害賠償額を予定する性質(損害の額を立証しなくても手付金の没収または倍返しの損害賠償を認め、それ以上の請求は認めない)、違約罰として手付金の没収または倍返しとは別に損害賠償ができるという性質などがあります。また、これらのいずれの性質ももたず、単に売買契約の成立を証明する証拠とする趣旨でやり取りされる場合もあります(この性質は、いずれの手付にも備わっているとされており、証約手付と呼ばれています)。

 したがって、不動産の売買契約の締結に当たっては、売買契約書において手付金の性質がどのように定められているか確認する必要があります。

Q
手付金の金額の上限についてのルールはありますか。
A

 手付金の金額について、原則として上限はなく、売主と買主が合意した金額を売買契約において定めることになります。ただし、売主が宅建業者であり、かつ買主が宅建業者ではない場合は、代金額の10分の2が上限とされています。

Q
手付解除とは何ですか。
A

 手付金が「解約手付」としての性質をもつ場合、買主は、売主に支払った手付金を放棄することにより、売買契約を解除することができます。反対に、売主は、買主から支払われた手付金額の倍額を買主に返すことにより、売買契約を解除することができます。

 このように、手付金の放棄または倍返しによって行う解除を手付解除といいます。なお、売主の倍返しによる解除は、倍額につき現実の償還までは要しませんが、倍額を現実に提供する必要があります(2017年民法改正557条1項本文)。

Q
売主が手付解除をできるのはいつまでですか。
A

 手付金が解約手付の性質をもつ場合には、売主は、買主から支払われた手付金額の倍額を買主に返すことにより、売買契約を解除することができますが、買主が「契約の履行に着手」した後は解除できないとされています。買主が「契約の履行に着手」とは、具体的には、買主が売買代金をいつでも支払えるように準備して売主に提供したことなどをいいます。

 ただし、売買契約書において異なる期限を定めることも可能です。例えば、手付解除を行える期限を売買契約書に明記し、その期限までは売主も買主も手付解除を行える内容の契約とすることもあります。

Q
買主が手付解除をできるのはいつまでですか。
A

 手付金が解約手付の性質をもつ場合には、買主は、売主に支払った手付金を放棄することにより、売買契約を解除することができますが、売主が「契約の履行に着手した後」は、解除することができなくなります。売主が「契約の履行に着手した後」とは、具体的には、第三者が所有している不動産の売主が買主に譲渡する前提として第三者からその所有権移転登記を受けた場合などがあります。

 ただし、売買契約書において異なる期限を定めることも可能です。例えば、手付解除を行える期限を売買契約書に明記し、その期限までは売主も買主も手付解除を行える内容の契約とすることもあります。

Q
手付金は売買代金に充当されますか。
A

 手付金は、解約手付、または売買契約で定められたその他の性質をもつものですが、売買代金とは異なります。したがって、売買代金の一部である「内金」や「中間金」などとは異なり、手付金は当然に売買代金の一部に充当されるわけではありません。売買代金の残金の支払いを行った時に、手付金を売買代金の一部として充当するためには、その旨を売主と買主で合意する必要があります(内金、中間金などについて【Q 内金・中間金とは何ですか。】参照)。

 一般的には、売買契約書において、残代金支払い時に手付金を売買代金に充当することを定めておくことが多いと思われます。

 不動産の売買契約を締結する場合に、手付金のやり取りをするのであれば、売買代金に充当するのかどうかを明確に売買契約書で定めておくことが重要です。

Q
申込証拠金とは何ですか。
A

 売買契約を締結する際に支払う手付金とは異なり、売買契約を締結する前に、買主が売主に対して申込証拠金という名目の支払いをすることがあります。

 一般的には、申込証拠金は買主がこれから不動産を購入しようとする意思を明確にする証拠として売主に預けられる金銭であり、売買契約を締結する場合には売買代金に充当されることになりますが、売買契約を締結しない場合に返還されるのかどうかは、事前に売主と買主の間で明確にしておく必要があります。